「代理」と「代行」はどう違うか?

「代理」と「代行」。どちらも、本人に代わって物事を行うことを表す言葉です。

似た言葉ですが、法令などで用いる場合、主に2つの点で違いがあります。

微妙な差なのですが、知っておくと契約書の作成などに役立つかもしれません。

違い1:代行は「法律行為」以外も行う

代理」は、本人の代わりに法律行為を行う制度です。民法に定めがあります。
本人以外の者が本人のために意思表示を行うことによって、本人の代わりに契約を結んだりします。その効果は直接に本人に帰属します。

民法 第99条
代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。

代理の重要なポイントは、代理人が代わりに行うのは基本的に「法律行為」だという点です。

※法律行為…意思表示によって、法律上の効果を生じさせるものです。代表的なものに契約があります。

一方、「代行」は、法律上明確な定義はありません。
そのこともあって、法律上においても、日常用語としても、「代行」で扱う事務は法律行為だけでなく、それ以外の行為・諸活動も対象とされています。

例えば、取締役の職務代行者(会社法352条)は、取締役として行うべき職務全般(ただし原則として常務に限る)を代わりに行います。

会社法 第352条
民事保全法第56条に規定する仮処分命令により選任された取締役又は代表取締役の職務を代行する者は、仮処分命令に別段の定めがある場合を除き、株式会社の常務に属しない行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。

また、医療・福祉の分野において、本人の支援者などが本人に代わって物事を選択・決定することを「代行決定」ということがありますが、判断・決定の対象は法律分野に限らず、医療や日常生活の場面に及びます。

日常用語としては、「運転代行」「家事代行」などがなじみのある所でしょうか。どちらも、代行するのは運転や掃除・洗濯など、法律行為ではありません。

このように、代行は、法律事務以外も対象にする(法律事務は含んでも含まなくてもよい)ところに特徴があります。

違い2:代行は、事故や欠けた場合の代わり

 

「代理」の場合、代理人は本人から委任を受けて仕事をします。通常は本人が健在です。
※親権者や成年後見など、委任でなく法律の規定により代理する「法定代理」もあります。

一方「代行」は、本来の職務者が事故などで職務を行えない、または職務者が欠けたときに、ほかの人が代わりを務めることを指すのが通常です。
本人との委任関係を想定していないのが「代行」です。

内閣法 14条3項
内閣官房副長官は、内閣官房長官の職務を助け、命を受けて内閣官房の事務(内閣人事局の所掌に属するものを除く。)をつかさどり、及びあらかじめ内閣官房長官の定めるところにより内閣官房長官不在の場合その職務を代行する。

 

国家公務員法 11条3項
人事院総裁に事故のあるとき、又は人事院総裁が欠けたときは、先任の人事官が、その職務を代行する。

 

放送法 30条4項
経営委員会は、あらかじめ、委員のうちから、委員長に事故がある場合に委員長の職務を代行する者を定めて置かなければならない。

先に挙げた取締役・代表取締役の職務代行者(会社法352条)は、本来の取締役に職務を任せられない場合に、裁判所の仮処分によって選任されます。

例外も多いので、気にしすぎる必要はない?

ただ、こういった区別は、法令においても必ずしも厳密にされているわけではありません。

例えば、国事行為の臨時代行は、天皇の「委任」によるとされています。疾患や事故がある場合の規定ではありますが、上記第2の例外ともいえます。
(国事行為の内容からすると、第1の使い分けに沿っているともいえるかもしれません。)

国事行為の臨時代行に関する法律 2条1項
天皇は、精神若しくは身体の疾患又は事故があるときは、摂政を置くべき場合を除き、内閣の助言と承認により、国事に関する行為を皇室典範第17条の規定により摂政となる順位にあたる皇族に委任して臨時に代行させることができる。

また、最初のほうで例として挙げた運転代行などは、まさに依頼を受けて行うものですから、上記第2の区別には当てはまりません。
ただ運転代行を依頼するのは、飲酒などにより本人が運転「できない」場合が通常ですので、上記の説明に反しないとも言えますが…

法令において「代行」の語が用いられるのは主に行政法規ですが、「代行」の意味で「代理」と表している例も多いです。

地方自治法 152条1項
普通地方公共団体の長に事故があるとき、又は長が欠けたときは、副知事又は副市町村長がその職務を代理する。(以下略)

 

原子力規制委員会設置法 6条3項
委員長に事故があるとき又は委員長が欠けたときは、あらかじめその指名する委員が、その職務を代理する。

 

面白いところでは、本来の職務者に事故がある場合を「代理」、欠けた場合を「代行」とする使い分けも見られます。

学校教育法37条6項
副校長は、校長に事故があるときはその職務を代理し、校長が欠けたときはその職務を行う(筆者注:代行の意)。(以下略)

 

日本年金機構法 12条2項
副理事長は、機構を代表し、理事長の定めるところにより、理事長を補佐して機構の業務を掌理し、理事長に事故があるときはその職務を代理し、理事長が欠員のときはその職務を行う

このように、実は法令上においても、使い分けはかなりあいまいです。
そうすると、日常用語で用いる分には、あまり神経質になる必要はないかもしれません。
ただ、一般的な違いを知っておくと、契約書などで言葉を用いるときなどは迷わずにすみそうです。

意思決定権限の有無は関係ない

ときどき、「代理」は代理人が自ら意思決定をするが、「代行」の場合はそのような権限がない、といった説明を見受けます。しかし、この区別はやや正確性を欠きます。

「代行」はそもそも意思決定の必要がない事務的な行為も対象に含むので、一見すると意思決定の権限がないように思えるのかもしれません。
しかし、第1の違いで説明したとおり、法律行為を職務に含んだ代行も存在します。

意思決定権限がなく、他人が決定したものを単に伝達する場合は、法学上は「使者」と表現します。

まとめ

やや小難しい説明をはさみましたが、代理と代行の違いを表にしてまとめると、次の通りです。
ただ、例外的な用例も多いのが実際です。

代理 代行
事務の範囲 法律行為 法律行為+それ以外
代わる事情 本人からの委任 本人に事故があった場合、欠けた場合