任意後見制度の概要

任意後見は、一言で説明すると「判断能力が不十分になったときの自己の生活・療養看護・財産管理に関する事務について、あらかじめ他の人に委任しておく契約」です。
別の言い方をすれば、「先に備えて、あらかじめ成年後見を予約しておく制度」ともいえます。

成年後見制度の一種ですが、法定後見(補助・保佐・成年後見)とは主に次の違いがあります。

  • 任意後見では、事前に指定した候補者が、必ず後見人として選ばれます。
    ※候補者との間で任意後見契約を結びます。
  • 後見人がどのような支援を行うかについて、あらかじめ詳細に定めておくことができます。
  • 任意後見人の報酬は、あらかじめ契約で定めた額となります。
    (法定後見の場合、所有する流動財産額などに応じて、家庭裁判所が決定します。)
  • 法定後見の場合、現在においては、原則として資産の積極的な運用が認められておりません。
    対して任意後見の場合、事前の計画が定まっていれば、ある程度資産の運用も可能です。
    (ただし、高額な出費を伴ったり、複雑な運用が必要な場合は、後述の民事信託がより向いています。)
  • 任意後見では第三者の監督人が必ず選任され、監督報酬が発生する点に注意が必要です。
    (法定後見の場合、監督人の選任は事案次第です。)
  • 本人が行った契約などの法律行為を、任意後見人が取り消すことはできません。

このことから、次のような場合には任意後見が向いています。

  • 自分の(事前の)意思どおりに支援してほしい
  • 自分が信頼する人に任せたい
  • いざというときに支援してくれる身近な人がいない
  • 元気なうちから継続して支援を受けたい
    ※財産管理委任契約をあわせて締結する必要があります。

任意後見は法定後見より優先されます。
このため、任意後見契約を結んでいる場合、原則として法定後見を利用することはありません。
例外については下記記事をご覧ください。

概要任意後見契約を結んでいる場合、通常は法定後見(後見・保佐・補助)より任意後見が優先されます。任意後見の契約を結んでいる人について法定後見の開始を申し立てても、原則として開始の審判はなされません。ただし例外として、法定後見を利用することが本人の利益のために特に必要があると認められるときは、任意後見をやめて法定後見に移ることが認められます(任意後見法第10条第1項)。「本人の利益のために特に必要がある」場合本人の利益のために特に必要があるとして、法定後見に移ることが認められる場合は、次のような場...

手続の流れ

任意後見を利用するには、まず任意後見受任者(任意後見人になってもらう人)との間で、公正証書で契約を結びます。
その後、ご本人の判断能力が低下したとき、家庭裁判所で監督人を選任してもらい、契約が発効(スタート)します。

契約内容の検討

契約内容を検討するにあたっては、次の2つのことが重要です。

ライフプラン

将来、自分がどのように人生の最期の生活を送りたいのか、そのためにどのようなお手伝いをしてほしいのかを考えます。
具体的には、次のような事項を確認していきます。

  • 生活歴、嗜好、既往症などの確認
  • 居住形態についての希望(自宅/施設 など)
  • 医療についての希望
  • お手持ちの財産の確認、現在~将来の収支
  • 財産の管理についての希望
  • 亡くなった後に必要な手続

これらの内容に基づき、任意後見人の代理権の範囲や、契約の細かい内容を決めていきます。

契約書とは別に、ライフプランや「指示書」を書面化することも考えられます。

任意後見受任者

誰に任意後見人になってもらうかを考えます。

任意後見人に資格はいりませんので、家族や知人になってもらうこともできます。 ※未成年者など、一定の不適任事由があります。

複数の人に頼むこともできます。ただし、役割分担や優先順位については、慎重な検討が必要です。

いわば自分の人生を預けることになるので、信頼できる方に頼む必要があります。

任意後見契約書の作成

契約の内容が決まれば、契約書を作成します。
任意後見の契約書は、公正証書で行います。
全国どこの公証役場で手続してもかまいません(出張の依頼も可能です)。

任意後見監督人の選任

ご本人の判断能力が低下した場合、家庭裁判所に対して任意後見監督人の選任申立てを行います。
※判断能力の程度は法定後見でいう補助程度でよいとされています。

申立てができる人は、ご本人、配偶者、4親等内の親族と、任意後見受任者です。
ただし、ご本人以外が申し立てる場合、ご本人の同意が必要です。

任意後見監督人は、弁護士・司法書士が選ばれます。
監督人が選ばれると、任意後見契約が発効(スタート)します。

任意後見にかかる費用

任意後見の利用にあたっては、次の費用がかかります。
大きなところは、任意後見人の報酬と、任意後見監督人の報酬です。
なお法定後見の場合と異なり、現在のところ、自治体の助成制度はありません。

任意後見契約書の作成

公証役場の手数料は、通常2~3万円程度です。
契約書作成を専門家に依頼する場合は別途報酬が必要となります。
(当事務所にご依頼いただく場合、132,000円~で承っております。)

任意後見監督人選任申立て

申立手数料などで通常1万円前後かかります。
※申立書に添付する医師の診断書の作成料は、別途かかります。

任意後見人報酬

当事者が合意で定めます。
家族などに頼む場合、無償とすることも考えられます。

任意後見監督人報酬

保有する財産の額に応じて、家庭裁判所が決定します。
京都家庭裁判所においては、基準が公表されています(下記リンク参照)。

https://www.courts.go.jp/kyoto/vc-files/kyoto/file/030406_HousyuuMeyasu.pdf

任意後見に付随する手続

家族でない方に任意後見人を頼む場合、任意後見とあわせて下記の手続をとることで、切れ目のない充実した支援を受けることが期待できます。

見守り契約

任意後見はご本人様の判断能力が低下してから開始しますが、任意後見受任者が身近な方でない場合、判断能力の低下をどのように察知するかという問題があります。
見守り契約は、任意後見受任者が専門職の場合に、定期的にご本人様と連絡を取り、判断能力を確認するものです。

財産管理委任契約(任意代理契約)

まだ判断能力が十分なうちから財産の管理や諸手続の一部を頼みたい場合、この財産管理委任契約をあわせて結ぶことで対応できます。

死後事務委任契約

任意後見契約は、ご本人様の死亡によって終了します。
このため、死後の手続は、原則として任意後見人が行うことはできません。

特に葬儀、居宅退去、死後の諸費用支払などについて、親族の対応が期待できない場合、死後事務委任契約を準備しておくことが望ましいです。

民事信託(家族信託)

財産の管理を他人に任せる手段としては、成年後見制度のほかに、民事信託(家族信託)の利用が考えられます。

次のような場合は、一般的に民事信託の利用が向いています。

  • 高額な資産を運用する場合
  • 所有不動産を有効利用したいが、具体的な計画が定まっていない場合
  • 自分の死後における財産管理に要望がある場合

一方、民事信託には次の限界・注意点があります。

  • 民事信託は特定の財産を管理運用するものです。
    信託外の財産や身上保護については対応することができません。
  • 信託できない財産、制限を受ける財産があります。
    農地、年金、株式などは注意が必要です。
  • 受託者は各種の責任・義務を負います(後見人より義務が軽いとはいえません)。

事案にもよりますが、任意後見で全般的な備えをしたうえで、対処な不十分な部分を民事信託でカバーする形が理想的です。

当事務所ができること

任意後見契約書の作成

任意後見契約書は定型のひな型も出回っていますが、ご本人のニーズに応えられる支援を実現するには、それぞれのご事情やご希望を丁寧に検討し、それに合った契約条項をつくることがたいへん重要です(そうでなければ任意後見を利用するメリットがあまりありません)。

当事務所では、下記の専門的知見をもとに、お客様に最適な内容の契約書作成をお手伝いします。

  • 成年後見業務を数多く取り扱ってきた経験をもとに、今後備えるべき点を助言し、ライフプランや契約条項の作成をお手伝いします。
  • ファイナンシャルプランナー(AFP)として、ご相談者様が思い描くライフプランが資産面において実現可能か、検討いたします。

また、民事信託士としても活動しておりますので、民事信託(家族信託)のご提案も可能です。

任意後見人の受任

任意後見人としての支援を当事務所にご依頼いただくことも可能です。

任意後見は、いわば人生をお預かりする重大な契約であり、依頼者様との高度な信頼関係が欠かせません。
このため、受任にあたっては、次のことをお願いしております。

  • ご依頼者様の価値観やニーズを把握する必要性から、原則として契約までに3回以上の面談、かつ初回相談から1か月以上の期間をいただいております。
  • ご依頼者様との間で信頼関係が築くのが困難と判断した場合、契約締結をお断りする場合がございます。
  • 身上面の支援における質を十分に確保するため、当事務所における受任上限数を設けております。
    このため、やむを得ずご依頼をお断りする場合がございます。