成年後見制度の法改正による見直し、主なポイント

現在の成年後見制度について、法律の見直しが法制審議会に諮問されました。
今後、法制審議会の部会において、具体的な改正案が検討される予定です。

成年後見人の一時利用可能に、法制審に諮問 現在は終身 - 日本経済新聞
小泉龍司法相は13日の記者会見で、認知症などの人に代わって財産管理を担う成年後見制度の見直しを15日の法制審議会(法相の諮問機関)総会へ諮問すると表明した。一度選任すると原則として亡くなるまで利用をやめられない現行制度を改め、期間限定で選任できる仕組みなどを検討する。法制審での議論を踏まえ、2026年度までに民法などの関連法改正を目指す。成年後見制度は判断能力が不十分な人に代わって後見人が預

本記事では、今後の改正論議における主要なポイントについて触れたいと思います。

制度見直しの経緯

はじめに、法改正の議論について、ここまでの経緯を簡単に述べておきます。

2000年に導入された成年後見制度は、当初は財産管理の色合いが強く、また主な担い手として家族が想定されていましたが、福祉的な需要が増大し、第三者後見人の比重が年々大きくなってきました。
そのような流れの中で、成年後見制度は現状の支援にそぐわないとして、改善を求める声があがるようになりました。

国の成年後見制度利用促進専門家会議では、成年後見制度等の見直しに関して、次のような指摘がなされています。

  • 他の支援による対応の可能性も踏まえて本人にとって適切な時機に必要な範囲・期間で利用できるようにすべき(必要性・補充性の考慮)
  • 三類型を一元化すべき
  • 終身ではなく有期(更新)の制度として見直しの機会を付与すべき
  • 本人が必要とする身上保護や意思決定支援の内容やその変化に応じ後見人等を円滑に交代できるようにすべき
  • 現状よりも公的な関与を強めて後見等を開始できるようにすべき

一方、日本も批准している障害者権利条約では平等な法的能力の享有を求めているところ、現行の成年後見制度は条約と適合するか疑問視する見解も聞かれるようになりました。

こうした流れを受け、2022年3月に閣議決定された第二期成年後見制度利用促進基本計画において、成年後見制度の見直しに向けた検討を行う方針が決められました。

これを受け、学者、関係専門職、当事者団体を委員とし、関係省庁を加えた「成年後見制度の在り方に関する研究会」が発足し、2年弱にわたり法改正の議論がなされました。
2024年2月に報告書が取りまとめられ、公表されています。

公益社団法人 商事法務研究会 | 成年後見制度の在り方に関する研究会
当会(公益社団法人 商事法務研究会)は経済活動に係る法制度に関する調査研究・法律知識の普及・啓発活動を行い経済の健全な発展に貢献することを目的としています。

今後、法制審議会の担当部会において検討がなされ、法律の改正案がまとめられる予定です。

成年後見法改正の主な論点

今後検討される法改正について、成年後見制度の在り方に関する研究会の報告書では、多岐にわたる論点が挙げられています。
ここでは、そのうち主なものをピックアップして解説します。

法制審議会資料(成年後見制度の見直しについて)より
法制審議会第199回会議(令和6年2月15日開催)資料より

適切な時機に必要な範囲・期間で利用する制度の導入

適切な時機に必要な範囲・期間で利用する制度の導入」は、今回の改正の目玉となる論点です。
一部で「スポット制」とも呼ばれています。

現在の法定後見制度では、成年後見人等に広範な権限が与えられ、また実務上は通常本人が亡くなるまで後見の利用が続きます。
これを、必要最小限の範囲・期間に限って制度を利用させ、必要性がなくなれば利用を終了させるというものです。
例えば、遺産分割や不動産売却のために成年後見制度を利用する場合、成年後見人には対応する事務に関してのみ代理権が与えられ、その事務が終われば後見が終了するというものです。(形式上は後見制度の利用を継続しつつ、後見人を退任させるという案も出ています。)

実は、現行法においても補助類型(本人の判断能力が比較的保たれている場合)は本来このような制度になっています。これを本人の判断能力の程度にかかわらず、必要な範囲・期間で利用させようというものです。

有効期間(利用可能期間の上限)を設けることも検討されています。

補充性の要件」も大きな論点です。
補充性の原則とは、本人が意思能力を喪失している状態でも、何らかの支援によって財産管理等に不安がないときは、法定後見制度は発動されないというものです。
「何らかの支援」は、日常生活自立支援事業、任意代理契約、身元保証サービス、親族による事実上の財産管理などが想定されます。法定後見制度の利用は最後の手段(ラストリゾート)であるべき、という思想からきています。

スポット制導入の課題としては、後見終了後の支援や契約取引のあり方があげられます。研究会ではあまり踏み込んだ議論とはなりませんでしたが、意思能力の解釈について論点が生じることも考えられます。
また、親族等による事実上の財産管理について、現行法上は正当化する根拠がなく、ここをどうするかも問題となります。事務管理法制も議論の対象となりえます。

取消権のあり方

取消権は、本人が行った契約を後見人が取り消せるというもので、本人の保護のため設けられた制度ですが、本人の法的能力が不当に制限されているとする批判もあります。

研究会では取消権を完全廃止する意見こそなかったものの、縮小させる方向が有力のようです。どのように取消権を定めるかについては様々な意見が出されています。
現行の取消権を縮小・撤廃する代わりに、消費者法などを改正して本人保護をはかる案も出ています。

制度の利用にかかる本人の同意

成年後見制度の利用にあたって、本人の同意を要件とするかどうかという論点です。

現行の制度では、後見類型については本人の同意は不要とされています。

自己決定権を徹底する立場からは、同意なしの後見開始は当然否定されます。一方で研究会では、本人保護の必要性が非常に大きい場合に限って同意なしでの利用を認める意見が多数のようです。

成年後見人等の交代のあり方

成年後見人を交代させる手段として、現在は解任と辞任の2つがありますが、解任は条件が厳しく、辞任も後見人の自発的な意思+家庭裁判所の許可が必要なため、円滑な交代を難しくさせていました。
新制度では、この解任と辞任の中間的な制度を設け、必要に応じて家庭裁判所の判断で交代させやすくすることが検討されています。
ただし、実際の運用を家庭裁判所だけで行うことには限界があると考えられ、各自治体において事案のモニタリングや受任調整を担う必要が出てくると思われます。

任意後見制度の見直し

研究会では、任意後見人に対する監督のあり方について多く議論が割かれています。

現行の制度では任意後見の利用にあたって任意後見監督人の選任申立てが要件となっていますが、任意後見の契約締結後に本人の判断能力が低下しているにもかかわらず申立てがなされない事案が多くあり、問題視されています。
一方、任意後見制度はあまり利用が進んでいないのですが、その一因として任意後見監督人の存在(と報酬)が挙げられています。このため、監督をゆるやかにすべきという意見も一部であります。

研究会では監督が必要であるというのが一致した意見のようですが、監督のあり方については様々な方向性が考えられます。

任意後見制度についてはこのほか、代理権の設定のしかた、任意後見と法定後見の関係、代理締結(いわゆる親心後見スキーム)の是非などが論点に挙げられています。

その他の論点

法定後見における監督のあり方、意思決定支援のあり方、報酬の定め方なども論点として挙がっています。

おわりに

今回の改正議論では成年後見制度の使い勝手に焦点があたっていますが、根本的な問題として、意思表示や意思能力の解釈はどうあるべきか、また福祉的な要請を民法がどこまで受け止めることができるか、など、民法典のあり方自体が問われる可能性もあります。

機会があれば、様々な改正論点につき、別稿で説明を試みたいと思います。

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