任意後見から法定後見に移ることはできるか?

概要

任意後見契約を結んでいる場合、通常は法定後見(後見・保佐・補助)より任意後見が優先されます。
任意後見の契約を結んでいる人について法定後見の開始を申し立てても、原則として開始の審判はなされません。

ただし例外として、法定後見を利用することが本人の利益のために特に必要があると認められるときは、任意後見をやめて法定後見に移ることが認められます(任意後見法第10条第1項)。

「本人の利益のために特に必要がある」場合

本人の利益のために特に必要があるとして、法定後見に移ることが認められる場合は、次のような場合とされています。
(参照:大阪高裁平成14年6月5日決定家月54巻11号54頁)

  • 任意後見人の代理権の範囲が狭すぎる
  • 同意権・取消権による保護が必要である
  • 合意された任意後見人の報酬があまりにも高額である
  • 任意後見人(任意後見受任者)が本人に対して訴訟をし、またはした者およびその配偶者ならびに直系血族である
  • 任意後見人(任意後見受任者)に不正な行為・著しい不行跡その他任務に適しない事由がある

このような場合においては、法定後見に移行する場合があります。

これらは、想定外の事態によることもありますが、契約を結ぶときに内容の検討が不十分であったために起こることも少なくありません。
契約を結ぶときの内容の検討、特にライフプランの検討が、たいへん重要です。

このほか、任意後見契約を結んだあと、本人の判断能力が衰え、後見制度を利用する必要が差し迫っているにもかかわらず、本人が契約発効を拒否する場合なども、法定後見へ移行することが考えられます。
※この場合、直接に法定後見への移行が認められるか、それとも後述のようにいったん契約を解除したうえで法定後見開始の申立てをすべきか、議論があるかもしれません。

申立権者

法定後見への移行について、申立てができる者は、次のとおりです。

  • 法定後見の申立権者(本人、配偶者、4親等内の親族等)
  • 任意後見受任者、任意後見人
  • 任意後見監督人

任意後見終了後の移行

また、何らかの理由で任意後見が終了した場合、法定後見開始の申立てをすることが可能になります。

例えば、任意後見契約を解除し、あわせて法定後見開始の申立てをすることで、任意後見から法定後見に移行することができます(ただし任意後見が発効している場合、解除は正当な事由が必要で、家庭裁判所の許可を要します)。