後期高齢者医療の保険証+介護保険証は本人確認に使えない?(追記あり)

(2019.11.28追記)法務局の取扱いが見直され、後期高齢者医療被保険者証+介護保険被保険者証の組み合わせは、従前どおり本人確認書類として利用できるようになったようです。

 

最近、様々なところで本人確認書類の提示を求められます。
「顔写真付きのものは1つ、顔写真のないものは2つ」といったことを聞かれた方も多いと思います。典型的なものは銀行で口座開設をする場合などでしょうか。

高齢者の方で運転免許証やマイナンバーカードをお持ちでない場合、後期高齢者医療被保険者証と介護保険証(介護保険被保険者証)の2つを提示されることが多いと思います。

ところが最近、一部の法務局において、この保険証の組み合わせは認めないとされているようです。どうしてでしょうか。

「顔写真のないものは2点」の根拠

本人確認書類に何が使えるかについては、各種法令で定められています。

先ほどの口座開設の例ですと、犯収法(犯罪による収益の移転防止に関する法律)の施行規則に定めがあります。

犯収法施行規則

6条1項1号
ハ 当該顧客等若しくはその代表者等から当該顧客等の本人確認書類のうち次条第一号ハに掲げるもののいずれか二の書類の提示を受ける方法又は…(略)

7条1号
ハ 国民健康保険、健康保険、船員保険、後期高齢者医療若しくは介護保険の被保険者証、健康保険日雇特例被保険者手帳、国家公務員共済組合若しくは地方公務員共済組合の組合員証、私立学校教職員共済制度の加入者証、国民年金法第十三条第一項に規定する国民年金手帳、児童扶養手当証書、特別児童扶養手当証書若しくは母子健康手帳(当該自然人の氏名、住居及び生年月日の記載があるものに限る。)又は特定取引等を行うための申込み若しくは承諾に係る書類に顧客等が押印した印鑑に係る印鑑登録証明書

マイナンバーや戸籍などの事務においても、同じ定めがあります。

行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(マイナンバー法)施行規則
第1条第1項第3号
前二号に掲げる書類の提示を受けることが困難であると認められる場合には、次に掲げる書類のうち二以上の書類
イ 国民健康保険、健康保険、船員保険、後期高齢者医療若しくは介護保険の被保険者証、健康保険日雇特例被保険者手帳、国家公務員共済組合若しくは地方公務員共済組合の組合員証、私立学校教職員共済制度の加入者証、国民年金手帳、児童扶養手当証書又は特別児童扶養手当証書

 

戸籍法施行規則 第11条の2第2号
二 戸籍法第十条第一項又は第十条の二第一項の請求をする場合において、前号に掲げる書類を提示することができないときは、イに掲げる書類のいずれか一以上の書類及びロに掲げる書類のいずれか一以上の書類を提示する方法(ロに掲げる書類を提示することができない場合にあつては、イに掲げる書類のいずれか二以上の書類を提示する方法)
イ 国民健康保険、健康保険、船員保険若しくは介護保険の被保険者証、共済組合員証、国民年金手帳、国民年金、厚生年金保険若しくは船員保険に係る年金証書、共済年金若しくは恩給の証書、戸籍謄本等の交付を請求する書面に押印した印鑑に係る印鑑登録証明書又はその他市町村長がこれらに準ずるものとして適当と認める書類

このため、市町村の窓口で後期高齢者医療被保険者証と介護保険証の2つを提示された経験のある方もいらっしゃると思います。

 

参考リンク:

本人確認の措置(内閣府)

番号法に基づく本人確認に必要な確認書類等(国税庁)

 

不動産登記では認められない?

さて、不動産登記においても、本人確認書類の提供を求められる場面があります(権利証を紛失している場合)。

不動産登記規則 第72条第2項第2号
国民健康保険、健康保険、船員保険、後期高齢者医療若しくは介護保険の被保険者証、医療受給者証(略)、健康保険日雇特例被保険者手帳、国家公務員共済組合若しくは地方公務員共済組合の組合員証、私立学校教職員共済制度の加入者証、国民年金手帳(略)、児童扶養手当証書、特別児童扶養手当証書、母子健康手帳、身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳又は戦傷病者手帳であって、当該申請人の氏名、住所及び生年月日の記載があるもののうちいずれか二以上の提示を求める方法

ところが最近、一部の法務局においては、後期高齢者医療被保険者証+介護保険証の組み合わせを認めないという取扱いをしているようです。

聞くところによると、法務局の解釈としては、「若しくは」は「どちらか」の意味なので、「A若しくはB」とある場合、AかBのどちらかしか選べず、AB両方は認められないとのことです。
つまり、国民健康保険+介護保険の保険証は○だが、後期高齢者医療+介護保険の保険証は×としているようです。

国民健康保険、健康保険、船員保険、後期高齢者医療若しくは介護保険の被保険者証」という文言は先に述べた犯収法、マイナンバー法、戸籍法と同じであるにもかかわらず、それらとは異なる独自の解釈で運用されている状態です(戸籍事務も不動産登記も同じく法務省管轄なのに法令解釈が異なるのは、縦割りらしいともいえますが・・・)

 

「若しくは」の意味

しかし、上記の一部法務局の運用については、法令解釈の基本的な部分で誤解があると言わざるをえません。

「若しくは」(「もしくは」と読みます)というのは「又は」(または)と同じ意味で、いくつかの選択肢を並列的に挙げるときに用いられます。
3つ以上の選択肢があるときは「A、B、C若しくは(又は)D」というように、最後の部分だけ「若しくは(又は)」を入れるルールとなっています。

語句が2個のときは「又は」で結び、3個以上のときは最後の2個の語句を「又は」で結び、その他の接続は読点で行うこととされている。

―『法律学小辞典』第4版補訂版 「基本法令用語」より

つまり、
「国民健康保険、健康保険、船員保険、後期高齢者医療若しくは介護保険の被保険者証」
というのは、国民健康保険・健康保険・船員保険・後期高齢者医療・介護保険の5つを単に並べているだけであって、後期高齢者医療と介護保険の2つを特別な関係としているわけではないのです。

よって、少なくとも文言上は、国民健康保険・健康保険・船員保険・後期高齢者医療・介護保険5つの保険証の中から好きなものを2つ選べばよいのであって、上記法務局の解釈はおかしいということになります。
(実際には、このうちありえない組み合わせもあるのですが、その説明は省略します。)

 

そもそも・・・

そもそも、保険証の発行(保険者)は、国民健康保険と介護保険は原則として市町村が行うのに対し、後期高齢者医療は都道府県ごとに設置された広域連合です。
国民健康保険+介護保険の保険証は同じ機関が発行しているのに対し、後期高齢者医療+介護保険の保険証はそれぞれ異なる機関での発行なので、後者のほうが証明力が高いはずです。にもかかわらず、前者が○で後者が×というのは、常識で考えてもおかしいと思うのですが・・・

 

また、先ほどの戸籍法の場合、昔は次のような条文でした。

国民健康保険、健康保険、船員保険若しくは介護保険の被保険者証、・・・

仮に、法務局の解釈を採るならば、船員保険証と介護保険証が一組になるわけですが・・・そんな組み合わせはおかしいですよね。

 

いずれにせよ、こうした一部法務局の取扱いは、高齢者の権利を不当に侵害しうるものです。早急な是正を望みます。

(2019.11.28追記)法務局の取扱いが見直され、後期高齢者医療被保険者証+介護保険被保険者証の組み合わせは、従前どおり本人確認書類として利用できるようになったようです。